G7農業大臣会合で見えて来たもの

2024年09月30日


9月26日から28日までの3日間、イタリアシチリア島のシラクサで開催された「G7農業大臣会合」に出席しました。参加国は議長国のイタリア、日本、カナダ、ドイツ、フランス、アメリカ、イギリスの7か国にEUの農業担当委員が加わります。それに国際機関であるFAO(国連食糧農業機関)など5機関、さらにヨーロッパ、とりわけイタリアは歴史的にも地理的にも難民の流入問題などにしてもアフリカとは切り離せません。そのためアフリカから11か国とアフリカの連合機関である「アフリカ連合」が招待されました。つい2週間前、ブラジルで開催されたG20農業大臣会合比べてそれぞれの発言回数も多く、より掘り下げた議論が行われ、趣きが違う雰囲気の中での会合でした。

アフリカ問題の深刻さ

初日は「アフリカフォーラム」が開催されました。「アフリカの食料問題と所得の向上をいかに実現させるか」が全体のテーマでした。そのうちの一つ「農業分野におけるG7とアフリカ諸国の連携強化」の会合で私はスピーチをしました。内容は我が国がタンザニアで実施を始めた、タンザニアの小規模コーヒー園と民間企業(UCC上島珈琲株式会社)と商社(丸紅)の連携によって、生産から流通、買取、商品化までの一体的な流れをつくり、農園に利益をもたらすという取り組みの紹介でした。他国から大変な関心を示していただきました。しかし、アフリカの食料システムの強靭化はまだまだこれからであり、食料安全保障や所得向上の点でG7がさらに協力・実践して行かなくてはならない事を感じました。

会合は5つのセッションで各国が意見発表

G7の本体会合は「マニア―チェ城」という、シチリア島の中のオルティージャ島という小さな島の突端にある11世紀初頭に建設された古城の中で行われました。5つのテーマに分けて2日間の論議でした。

セッション1」では日本も含め世界の若い農業者や学生がそれぞれスピーチし、それに対してG7の大臣が意見を述べるというものでした。若者は農業におけるイノベーションの必要性、食料安全保障、農業への資金投資などで積極的なスピーチをしました。

それに応えて私からは「前年のG7宮崎会合においても高校生から意見を聞いたが、今回もそれを継承していただいたイタリアの議長に感謝する。我が国でもスマート農業や有機農業を農業高校や農業大学校でカリキュラムとして強化しているが、皆さんからの貴重な提言を持ち帰り若者にとって魅力的な農業施策を打ち出せるようにしたい」とエールを送りました。各国の大臣もこれからの農業における若者たちの提言に応えて行かなくてはならないというスピーチをしました。

「セッション2」では前日と同様「G7がいかにアフリカ農業に協力できるか」がテーマでした。私は再び、私たちが「エルプス」と呼んでいるタンザニアでの試みをスピーチしましたが、「それには国際機関である国際農業開発基金(IFAD=イファッド)が橋渡しをしている」と述べると早速IFAD・イファッドの総裁が面会を求め、「日本の取り組みに感謝する」と述べられました。私の方からも「これからも第2第3の現地生産農園と民間企業とのコラボレーションである『エルプス』を実施して行く」と応えました。ただその中で配慮しなければならないのは環境や人権についてです。それがないと以前のプランテーション農業と同様ですので、そこは私からも「環境・人権に配慮しつつサプライチェーン全体の持続性を高める」と強調しました。

「セッション3」は生産的で強靭、公平かつ持続可能な食料システムがテーマでした。私からは、ロシアのウクライナ侵略が食料や資材価格の高騰にどれだけ影響を与えているかを強調したうえで、わが国が今年25年ぶりに農業の「基本法」を改正し国民一人一人に食料を安定的に供給し続けることが出来る体制をつくる事としている、と述べ、更にウクライナ農業の復興のために昨年11月にウクライナ農業政策・食料省と「合同タスクフォース」を立ち上げ農業の生産力の向上に向け良好で様々な交流をしている事を紹介しました。

「セッション4」は今回、漁業が取り上げられました。我が国は水産物を主要タンパク源として来た歴史を述べ、資源管理に努めるとともに漁村は多くの地域資源を持っていることを強調し、産業分野として推進していることを述べました。私たちが進めている、いわゆる「海業」を紹介しました。

「セッション5」は、科学イノベーションと気候変動がテーマでした。我が国が最も得意とする分野であるという事を、各国からの反応で感じ取りました。特に「気候変動」は現在地球全体の農業、水産業の最大の課題です。「土壌劣化」や「自然災害の激化」などで、G7のみならず、先に行われたG20でも途上国の深刻な問題があり、我が国の技術への期待が大きいと感じました。

私は、気候変動に対して「科学とイノベーション」でいかに緩和するか、一方で種苗の改良などどれだけ適応させていくか、という双方の視点で生産力を上げて行かなくてはならない必要性を説きました。そして各国の気象条件が違う中での、わが国と比較的環境が似通っている「アジアモンスーン地域」において「日・ASEANみどりの協力プラン」を立ち上げ、生産力向上と持続可能性の両立、ひいては食料安全保障への貢献を目指すことを発表しました。

世界の課題と目標

今回の会合で特に感じたことを一言で言うなら「世界の食料安全保障の確立はまだまだ遠い」という事です。途上国に対してG7がどれだけ貢献しているか、気候変動に対しての技術的対応にまだ成果が届いていない。そしてロシアのウクライナ侵略に見られるようにそれぞれの地域での紛争が食料生産や公正な食料の貿易をどれだけ阻害しているか計り知れないものがある、などが浮き彫りになりました。これらについて「G20」と「G7」の間にはかなりの意識的な開き、技術の格差、本当にどこまで協調できているか、等を私自身は感じ取りました。

その中でも世界の若者によるプレゼンテーションは、食料・農業に対する危機感と協調姿勢、将来技術力による克服、などの積極姿勢を訴えるものであり、頼もしい限りでした。今後の課題対応には常に若者の意見が重要であることも認識しました。

【二国間協議に成果

ドイツやアメリカ、イタリアさらには世界の各食料機関と二国間協議を、全体会合の合間を縫って行いました。全体会合はどうしても総論になりがちですが、二国間協議になるとそれぞれの各国の農産物の貿易障壁などかなり具体的、技術的な話し合いになって来ます。G7の中でも各国の利害関係が錯綜しており、国際交渉の難しさも改めて理解出来ました。

日本の役割

今回のG7会合に出席し、わが国の農業、水産業は世界の中でかなり先端を走っている、と感じました。そして「食料・農業・農村基本法」を今年改正したことはまさに世界の流れと日本の課題をタイミングよく捉えたものである事を、各国の悩みを聴きながら認識しました。

「気候変動」「生産性の向上」「農家の所得確保」「合理的な農産物価格の必要性」「世界の農業格差」などがそれぞれの国の共通課題でした。それに対して国連機関や国際機関がどれだけ貢献をしているのか、これは国連がウクライナへの侵略やイスラエル・パレスチナ紛争に対して未だに有効な手段を見いだせないでいることと似通っている事も私自身感じ取りました。

日本としては、農林水産業の国内問題をまず解決して行かなくてはなりません。そしてその具体的成果をもって世界の問題解決に乗り出していく事が大事であり、それが世界から求められている事であることが分かりました。例えばアフリカにおいて、小さな集落のコーヒーの生産現場と日本の企業、技術が連携することにより、所得の確保や生活水準の向上、食料安全保障の確立、気候変動に対しての克服などを実証して行く事など一つ一つ成果を上げて行くことが各国から、信頼され尊敬されていくことである事が改めて分かりました。

「我が国の現状を克服しながら、世界に目を向けて、もう一度我が国を省みる、そのような多面的な視点を持ち実践を繰り返して行く事」がもっとも大切である事、そして日本の民間技術の高さと世界の若者への期待を同時に感じた今回のG7でした。

最後に、今回のG7会合で出た意見を取りまとめた声明文が採択されました。そしてこの経験と感性を今後も我が国と世界の農林水産業に生かしていかなくてはならないと感じた貴重な国際会議でした。最後に私の発言に関して、また声明作成に関して尽力していただいた農林水産省をはじめとする関係者のご協力に心より感謝します。

写真はG7各国を迎える儀仗兵、G7と国際機関の参加者、アフリカフォーラム、G7でスピーチする私、FAOの事務局長と、国連世界食糧計画(WFP)の事務局長と、イタリアの農業大臣との覚書交換、最後の共同記者会見