ブラジルG20農業大臣会合

2024年09月16日


 9月12(木)、13日(金)の両日、ブラジル・クイアバで開催された「G20農業大臣会合」に日本の農林水産大臣として出席しました。「G20」は、世界の金融事情が深刻になった1999年に、それまでのG7だけでなく、ロシアや中国、インド、ブラジルなど新興国の財務大臣や中央銀行総裁などを加え、主要20か国・地域で開催するようになった国際会議です。その後世界で様々な問題が発生するようになったため、財務大臣だけでなく外務や経済、農業、観光、保健などの各専門の大臣がテーマごとに集まり、世界のそれぞれの課題に協力して取り組むような一大国際会議になりました。農業大臣会合は2011年から始まり「食料危機」や「食料安全保障」「地球環境」などについて話し合い、これまで8回、「宣言」を採択して来ました。
 今回会場となったクイアバはブラジルのサンパウロから内陸部(北西)へ1500キロ以上、航空機で2時間15分かかる都市です。会議場は空港から更に150㎞を車で移動した地で開催されました。

G20国と18の招待国・機関が出席、3年ぶりに宣言採択】

 参加国は議長を務めるブラジルなど19か国とEU(欧州連合)、アフリカ連合の2地域、招待国はチリやオランダなど10か国、それにFAO(国連食糧農業機関)、IFAD(国際農業開発基金)、OECD(経済協力開発機構)などの8機関です。

 会合は12日の午前9時半からブラジルのファヴァロ農業・畜産大臣の進行で始まりました。午前中は主に民間企業や学術界などによるパネルデスカッションです。そしてメインの午後、事務方で練り上げて来た閣僚宣言が採択されました。この2年間は各国の意見が合わず採択が見送られていただけに3年ぶりの採択は大変な意味があります。内容は

➀「多様な道筋における食料・農業システムの持続可能性」

➁「食料安全保障及び栄養への国際貿易の貢献の強化」

➂「持続可能で強靭かつ包摂的な農業・食料システムにおける家族農業、小規模経営者、先住民並びにローカルコミュニティーの重要な役割の強化」

➃「持続可能な漁業・養殖業の地域及び世界のバリューチェーンへの統合促進」

というものでした。

分かり易い言葉に直すと

 非常に分かりにくい宣言文の内容ですが、これは各国農・漁業の姿が違う中で、事務方が喧々囂々・侃々諤々(けんけんごうごう・かんかんがくがく)の論議の末、各国が納得するように取りまとめた結果です。私なりに解釈すると

「世界各国の農業や食料生産事情は複雑多義であるために、万能薬はない。しかし食料安全保障上、生物多様性などを考え、環境に配慮し、一方でイノベーションを通じて気候変動に強靭な作物を創り出すことは出来る」

「国内生産が最も大切であるが、世界の食料貿易も安定的なものにして行く必要がある。そのためには食料の供給ルートを多様化し、WTOのルール等は遵守すべきである」

「小規模家族農業や先住民の農業を持続させていくためには機械化、スマート化を進め、女性や若者、先住民に財政支援や技術トレーニングをさせなくてはならない」

「漁業については乱獲を禁止するためにも国際協定にどの国も加入しなくてはならない」

というものだと思います。

我が国の「食料・農業・農村基本法」と同趣旨

 今回特に特徴的だと思ったことは、地球の気候変動と肥料や農薬の使用過剰から来る食料生産力減退や農地土壌の劣化に対する危機感でした。各国のプレゼンテーションにそれは表れていました。漁業にも共通して言えることでした。実際会場の周辺もしくはブラジル全体で、乾燥による山火事や草原の自然発火による火災が頻発していました。2023年1月に誕生したブラジルの新たなルーラ大統領の方針として、家族、小規模、先住民の農業に力を入れているという事も特徴的でした。農業関係の大臣として「農業・畜産大臣」と「農業開発・家族農業大臣」の2人の大臣を置いたことがそれを物語っています。

 宣言文の内容は、わが国が今年の国会で改正した「食料・農業・農村基本法」とほぼ同じ方向であり、わが国の基本法は世界の潮流の中で先駆的に改正されたことを確信しました。特に改正基本法は農業の持続可能性を最も重視しており、そのための環境重視、合理的価格形成、スマート化、女性や高齢者、障がい者の参画を促進する環境整備などは、まさに世界をリードするものであり、自信をもって基本法の改正と関連法の推進、更には基本計画の実践を図らなければならない責務を感じました。

2回にわたる日本農林水産業についてのスピーチ

 私のスピーチは12,13日の2回ありました。アルファベット順に発言しますので私はイタリアの次13番目でした。それぞれ5分間の持ち時間です。

 一日目は食料安全保障の危機を訴えました。原因として新型コロナウイルス感染症やロシアの不当なウクライナ侵攻、更に気候変動では我が国の台風や豪雨による被害を例に挙げながら、国内農業資源の最大有効活用と食料貿易の円滑化を訴えました。そのために25年ぶりに基本法を改正し➀食料アクセスの充実➁国内生産と輸入安定確保による食料供給の安定➂「緑の食料システム戦略」推進による環境と調和のとれた農業➃農業生産環境で共通点が多いASEANとの「みどり協力プラン」の立ち上げ、などを紹介しました。持続可能な森林経営、木材利用も強調しました。

 二日目のスピーチは➀我が国の農業者の96%が家族経営に分類されること➁人口減少と高齢化に対応して、スキルを持った人材育成とスマート農業技術により、生産性を向上させること➂水産業において資源管理を重視しデジタルにより管理の正確性と向上に努めること、などを報告しました。

 2日目は気持ちとして少し余裕も生まれスピーチ終了後に「オブリガード」(ポルトガル語でありがとう)と言って締めくくりました。会場の拍手に満足感を味わいました。

2国間会談も活発に展開】

 全体会合の合間を縫って2国間会談も行いました。これはほとんどが相手国からの要望で、農林水産物の輸入解禁等を求めるものです。ブラジルは農業開発・家族農業大臣、そして農業・畜産大臣と別々に、それぞれに30分ずつ会談しました。いずれも牛肉や柑橘類を含む果樹などの輸出促進を求めるものでしたので、こちら側としては「専門家同士で検疫も含めた技術的な話を進めている事」を伝えました。両国の今後の農林水産業の発展でお互いに協力する覚書に署名し、書面を取り交わしました。そして私の方から特に2025年大阪万博と2027年の横浜国際園芸博覧会への出展要請をしました。その他スペインの農業・漁業・食糧大臣、アルゼンチンの農牧漁業担当経済省副大臣、インドの農業・農民福祉担当大臣とそれぞれ会合を持ち、今年の7月にお会いしたばかりのEUのヴォイチェホフスキ農業担当委員、UAEの女性大臣であるアムナ気候変動・環境大臣とは立ち話で旧交を温めました。

サンパウロで移民の皆さんのご苦労に涙】

 G20会合の前日はサンパウロでの移民関連公式行事に出席しました。とりわけサンパウロは今から116年前の1908年、日本の国策により日本人の移民の方々が当時の「笠戸丸」で50日間以上をかけて渡航され、農園などを開拓された地です。取り分け熊本出身者は多く、熊本からのブラジル移民総数は約2万4千人で全国1位でした。このため熊本県人会も盛会で現在会員数400人おられます。その県人会の方々が私が熊本ということで盛大な歓迎会を開いていただきました。特に日下野良武(くさかのよしたけ)ブラジル日本語センター名誉理事長は私の高校の先輩で涙を流して喜んでいただきました。そして会場のホールで皆さんと食事をして熊本の出身地などを聴きながら話が弾みました。

 その前に慰霊碑を訪れ献花をするとともにブラジル移民資料館では、移民の方々が本当に言葉では言い尽くせないほどのご苦労をされた様子が手に取るように分かり目頭が熱くなりました。その後、それぞれがブラジルのために貢献されており、それが今、日本人に対する尊敬の念に繋がっているという事でした。先人の果たされたご尽力にただただ感謝です。

 今回の日程は9月9日に成田を出発、ドバイ経由でアフリカ、大西洋上空を経て片道35時間の移動、帰りも同様のコースで15日に帰国しました。7日間の出張でしたが内3泊は機中でした。しかしそれだけ時間をかけて行った価値は十分にあるものでした。地球儀で言えば日本と反対側の国ブラジルですが、お互い歴史的にも関係が深く友好的な国同士です。今後両国が連携して、世界の農林水産業のために知見や経験を出し合い、貢献して行く必要性を感じ取りました。

写真は上からインド農業・農民福祉担当大臣との会談、G20全体会合、会合での私のスピーチ、スペイン農業・漁業・食糧大臣との2国間会談、ブラジル農業・畜産大臣との会談、覚書協定調印後の覚書取り交わし、ブラジル農業開発・家族農業大臣と覚書協定調印後のツーショット、ブラジルサンパウロ熊本県人会の役員の皆さんと】