中東のUAEとブリュッセル、4泊5日(機中2泊)の出張
2024年07月13日
7月8日(月)から12日(金)までの5日間、中東のアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ、アブダビ、そしてベルギーの首都ブリュッセルのEU本部に出張しました。目的は日本産食品の輸出促進のための活動とEU農業政策の柱である共通農業政策(CAP)の実態把握と我が国とEUの食料・農業・農村政策についての将来の農業政策の在り方についての意見交換です。
【UAEとは】
UAEは「アブダビ」「ドバイ」など7つの王国・首長国が一つになって1971年に建国された、歴史的にはまだ建国50年ほどの連邦国家「アラブ首長国連邦」(United Arab Emirates)です。交易で栄えるドバイに加え、アブダビなどで石油、天然ガスが発見され、以来、空前の繁栄が続いています。首都はアブダビ、経済・貿易などビジネスの中心はドバイです。人口は約1000万人、うちUAEの人は1割で、その他はインドやバングラディッシュなどアジア、アフリカ諸国からの出稼ぎ労働者と言われています。
その富を象徴するのは世界一の高層ビル「ブルジュ・ハリファ」、828mで世界を見下ろします。その他、地上293mのビルの屋上にある、シンガポールのプールより高い屋外・屋上プールや高々と噴き上げる噴水、巨大観覧車、高さ幅ともに巨大な門など、世界一を誇る建造物が随所に見られます。林立する高層ビルの脇を片側4車線や6車線の高速道路が縦横に走り、まさに世界最先端を行く未来型都市です。しかし、もともとは中東の砂漠ですので7月の気温は40度以上、そして農業用水など水の確保が課題です。そのための日本の技術が求められています。
【日本食材への人気】
日本の食材は中東の人にとっては味も質も魅力の的になっています。和牛は絶大な人気です。私たちが訪れた牛肉の取引企業は熊本からの黒毛和牛を取り扱っていました。1キログラム当たりの価格は日本の10倍近くします。大型ショッピングセンターでは日本のスイーツ系洋菓子小売店、またラーメン店が大繁盛でした。ラーメンは「並み」で2000円以上します。寿司はもちろん、抹茶、ブドウやメロンなどの果物もほとんど高級品として取り扱われていました。
【輸出総合戦略を練るプラットフォームの必要性】
9日午後7時半から、ドバイにある日本の総領事公邸で、総領事招待により、商社をはじめとする輸出事業者の方々と夕食を取りながら意見交換をしました。日本食材は非常に人気があり、今後、中東全域、北アフリカへの輸出展開が期待されるという事でした。しかし、それぞれの国で進め方や政治・行政との関係、風習や宗教、手続業務などにかなりの違いがあり、丁寧な対応策が必要とのことでした。ドバイを拠点とした輸出のための戦略を総合的に考え、実行して行く「プラットフォーム」の早急な設立の必要性を感じました。
【気候変動・環境大臣と会談】
9日午後2時から、政治の中心地首都アブダビでアムナ・ビント・アブダッラー・アル・ダハーク・アル・シャムシー気候変動・環境大臣と会談のため到着地ドバイからアブダビに移動しました。ドバイ・アブダビ間は約140㎞、片側6車線の高速道路で約1時間半です。
アムナ大臣は、将来嘱望される政治家の様です。私たちは農林水産省職員、在UAE日本大使ら政府職員6人で会談に臨みましたが、UAE側も大臣をはじめとする6人の政府高官が出席されました。大臣をはじめ出席者は全て女性でした。中東は一般的に男性優位の社会というイメージがありましたが、見事に覆されました。会談中にお茶をつぎ足しに来る職員がすべて男性でした。
【中東にも気候変動の影響】
会談では昨年7月の岸田総理の訪問時に締結した日本とアラブ首長国連邦との間の「農業及び水産業分野における協力覚書」に基づく今後の取組について意見交換を行い、農業、漁業分野で今後協力して行くことを約束しました。また、日本産農林水産物・食品の輸出拡大に向けた我が国の取組を紹介し、協力を依頼しました。アムナ大臣からは、気候変動は中東にも影響を及ぼしており日本の技術が必要とされている事や、水産分野での日本の支援を求められました。先日はドバイが降雨に襲われ防水対策がないドバイの街中で大変な洪水になったという事でした。気候変動の影響対策は世界中、待ったなしです。
会談後再びドバイに戻り、街のマーケットの様子を見て、夜の総領事公邸での輸出企業との意見交換会になった次第です
【EU農業委員との会談】
EUの本部があるブリュッセルでは11日午前8時45分から、EU農業政策の最高責任者であるヴォイチェホフスキ委員との会談に臨みました。私個人としては、EUの共通農業政策(CAP)がどう展開されているかをじっくりと聞きたいと思っていましたが時間の制約で無理なことは承知していました。しかし「触り」だけでも聞けたらと楽しみにしていました。ヴォ委員はポーランド出身の方で、ポーランド農業を色濃く反映した政策論をお持ちでした。会談では、日本の農業政策が成功していると指摘した上で、大まかに言って次のようなことについて言及されました。
①新CAP(2023から2027までの農業共通政策)では、一定の義務的条件(クロスコンプライアンス)を伴う、環境を重視した直接支払いが、成功しつつある
②昨年、宮崎で行われたG7サミット農相会議での合意した「持続的環境重視の農業」などの事項を今後の議論でも守っていく
③複合経営に取り組む中小規模の農業は、環境変化への適応力も高く、食料安保に貢献し得るもので、生産性も高いと考える
などです。これらは会談後の日本メディアのぶら下がり会見でも明らかにしました。
この中で委員が言われた家族経営小規模農業の定義は、EU各国で異なりポーランドでは農場規模30ha以下でしたので、日本にそのまま当てはめることはできません。
【マヨネーズ容器への規制撤廃を要望】
最後に今回私から重要な点を申し入れました。それはマヨネーズなどの容器に使用している多層フィルムが規制されることへの懸念です。私から「多層フィルム容器は食品の鮮度保持に役立ち、食品ロス削減にも貢献している。包装廃棄物規制の導入により多層フィルムが規制されれば食品ロス削減に逆行することになり、日・EU農産物貿易の支障になりかねない。是非本規制を担当する環境担当欧州委員に日本の懸念をお伝えいただきたい」と申し入れました。
対してヴォ委員は「早速担当委員に伝える」と言われました。EUは再利用やリサイクルが不可能な容器については厳しく規制する方針を立てています。例えば日本酒は瓶に入っており、再利用可能ですが欧州でそれらの日本酒は製造されていないので再利用できず、日本酒の輸出が不可能となるおそれがありました。しかし、日本からの申し入れで例外扱いとなりました。同様にマヨネーズなどの多層フィルム容器が規制の対象になる恐れがあります。同容器は日本が繊維業界企業と共同して開発した便利で食品を長持ちさせる画期的な容器です。これが規制の対象になり容器が瓶などになると、かさ張るだけでなく中身が長持ちしなくなり、食品ロスに繋がるという可能性が高くなります。そのため私が特に最後に発言を求めたのでした。
【環境直接支払いの規模は小さい】
EU共通農業政策の特徴は環境直接支払いです。しかし話を聞いていると、1ヘクタール当たりの支払い金額は意外と少ないものでした。各国によってその比重の置き方も違うようです。我が国においてはEUの直接支払いが万能主義のように捉えられがちですが、EUにおいては環境農業を実践して行くためのインセンティブ程度のもののようにも感じました。ヴォ委員との会談前日の10日、ドバイからベルギー・ブリュッセル空港に到着後、アントワープ州の酪農家を視察しましたが、そこは農場面積60ha、搾乳牛150頭、年間生産生乳量150万㍑の酪農家でした。家族経営で、飼料を含め環境型酪農を実践されていました。農場主の方の話によると年収80万ユーロ(1ユーロ170円換算で1億3600万円)に対して面積ベースの環境直接支払いは1.5万ユーロ(255万円)と言われました。収入に対する環境直接支払いは2%に満たないという事になります。我が国の直接支払いや条件不利交付金(ゲタ)の方がはるかに高いようです。
【日本の食品、技術は各国が認めるところ】
今回感じたことは、日本の食料品は歳月をかけて加工方法、品種などが改良されており、世界でもトップクラスの糖度やうま味があり、中東、欧州などに広く上品な味覚として認められている事、食品にしても細やかな調理工夫がしてありラーメン、スィーツ、寿司、日本酒、ウィスキーなど、いずれも高級感が売りになっている事、などを改めて認識しました。先人のたゆまぬ努力に感謝です。また、栽培技術に限らず日本が持つ農業の種子・種苗・たい肥技術はレベルが高く、灌漑(かんがい)をはじめとする農業土木技術は世界の気候変動にこれからおおいに貢献することは間違いないことも理解しました。
【農林水産政策、世界の拠点としての役割】
日本の中を見ても各地に様々な農業形態があるように、世界を見れば全く違う農林水産業がそれぞれの国、地域に見られます。しかし、共通していることは地球の気候変動に今後、どのように対応した施設や種子・種苗、土壌をつくって行くか、環境負荷低減農業を実践して行くかです。そしていかに美味しくて安全で、生産性の高い農林水産物を持続可能な形で提供して行くか、という事です。そこには今国会で改正した「食料・農業・農村基本法」の考え方と共通するものがありました。
農林水産政策に対して、日本を拠点として世界に様々な貢献ができることに自信を持った今回の出張でした。
【写真は➀アラビア半島の中のUAEの位置とUAE全土➁UAEアムナ気候変動・環境大臣との会談➂ベルギー・アントワープ州の酪農家の視察➃EU農業政策最高責任者ヴォイチェホフスキ委員との会談】