基本法関連の法律が成立、農政新たな時代へ 

2024年06月17日


 6月14日(金)参議院本会議で「食料供給困難事態対策法」など先に成立した「改正食料・農業・農村基本法」に関連する法律が可決・成立しました。これで今国会に提出された農業関連法案は全て成立しました。まさに新たな日本の農業を迎えるに当たって必要な法律ばかりです。関係者の皆様に感謝するとともに、これらの法律の実働に当たって今後、丁寧に各地で説明会などを開いていかなくてはなりません。更に重い責任がかかります。

今回、なぜ農政の転換期なのか】
 今国会は農政の転換点を迎える国会です。それは我が国の食料と農業そして農村を取り巻く状況が、国内外で大きく変化してきたからでもあります。
前回の日記にも書きましたが、世界的に見ると
➊「気候変動が想定を上回る速さで進み、各地で食料生産・流通に支障を来しています」。中南米で干ばつが起きました。その結果パナマ運河が一時航行できなくなりました。日本への輸入も別ルートが必要になりました。各地で起きる山火事や洪水は地球温暖化の影響を極めて強く受けています。
➋「ロシアのウクライナ侵略により、穀物生産大国であるウクライナからの輸出が途絶え間接的に日本も影響を受けました」。ウクライナからは小麦、トウモロコシがヨーロッパに輸出されていました。しかしそれが一時途絶えたことでヨーロッパは輸入先を北米や中南米に切り替え、そのあおりを日本が受けることになりました。飼料や肥料が高騰しました。この様な国際間の紛争による地政学的リスクは今後も予想されます。
➌「中国の世界各地からの食料調達と人口が爆発的に増加するアフリカなどを含めた食料争奪が始まりました」。日本は、好きな時に食料やその原料を輸入できる状態でなくなりました。円安も手伝って、食料輸入で買い負けするケースが頻発しています。
➍「昭和の時代に就農した世代が大量にリタイアする中で次の時代の農業の担い手が激減する見込みです」。約120万人いる現在の農業従事者が20年後には4分の1の30万人に減少すると見込まれています。食料生産をいかにして確保して行くかが問われています。
➎「高齢化と人口減少が進み、中山間地だけでなく都市部でも食料を入手できない人が増加しています」。都市の中で生活していても、食料の買い出しに行けない高齢者の比率が高まっています。いわゆる「食料アクセス」が社会的に深刻な問題になって来ました。

課題にどう対応するのか
 このような現状で
➀いかに食料を安定的に全ての国民に皆さんに供給できるか、かつ届けることが出来るか
➁そのための国内における食料生産体制。とりわけ「人」と「農地」をいかにして確保するか
➂非常時でも食料輸入が可能な体制をどのようにつくるか
➃人口減少で食料需要が減る中で、輸出を拡大することによって、平時の生産体制を安定的なものにしておかなくてはならない
➄過疎化が更に激しくなる中山間地の農村と農業と農地をどのような方向にもっていくか
などの課題が浮き彫りになり、それらに対する対策を法律に基づく政策と予算によって早急に実行することが求められています。

基本法を頂点とする新たな法律の練り直し
 そこで25年前につくられた「食料・農業・農村基本法」をまず改正すること。そして基本法に関連する法律を改正することが今国会の最大の仕事でした。
関連する法律は食料生産の基盤である「農地法」「農業振興地域法」、農業経営体の経営基盤を強くする「農業経営基盤強化促進法」をそれぞれ改正すること、
そして担い手の減少に対して「スマート農業促進法」、わが国が食料に対して不測の事態に陥った時の備えとして「食料供給困難事態対策法」という法律を新たにつくる事でした。
 基本法は農政の憲法ともいうべき中心的な法律でしたので、基本法審議として農林水産委員会で1本の法案として審議しました。一方、関連するこれらの法律は、全てにわたって繋がっていますのでそれぞれを「関連法案」として一つに束ねて衆参の農林水産委員会で審議していただきました。
 衆議院、参議院ともに与野党から厳しい質問や指摘がありました。しかし農林水産省として2年以上にわたって学者や現場の皆さんから構成される検討会、各ブロックでの意見聴取の会、与党におけるプロジェクトチームをつくっての各分野別審議などを実施して作成した原案です。将来に備えた農業の展開が出来るような法案に仕上げたと思い、自信をもって国会に提出しました。

賛成多数での成立
 審議時間は基本法が衆参合わせて47時間45分、関連の法律が衆参合わせて24時間。質問者は与野党合わせて延べ衆議院が101人、参議院が75人。法律の中で特に重要な法律という事で、国会で「重要広範議案」として位置付けられ、衆参の本会議での与野党からの質問、それに対しての総理を含めた答弁、更に農林水産委員会にも総理が出席して答弁されました。丁寧な審議が出来たと思います。
 私は法案提出の責任者として積極的に答弁して来ました。基本法案、関連法案合わせて、与野党延べ822本の質問への答弁を準備しました。いずれも厳しい質問で連日緊張の連続でした。何とか答弁できたのも役所や同僚の政務2役(副大臣2人、政務官2人)のお陰であると感謝しています。
採決は委員会では「スマート農業促進法案」のみが全会一致で、後は一部野党が反対に回り賛成多数で可決しました。法案によっては賛成した野党もあります。本会議では「スマート」にも反対に回った少数政党があり、全て賛成多数による成立でした。

これからの実効性が大切】
 問題は今後です。日本の食料と農業と農村政策をそれぞれ並行して進めなくてはなりません。どれ一つ手を抜けない課題を抱えています。まずは来年度までに基本計画をつくり、並行して令和7年度の予算を獲得し、全国に丁寧に説明をし、そして一つ一つを現場におろし、各農家からしっかりと受け止めて頂き、各農家がやりがいを持って取り組んでいただく農業にして行く必要があります。同時に農業所得が向上し、農業への参入が男女を問わず増加するようにして行かなくてはなりません。そして農業現場や農村が「楽しく」「協力して」「活力を持ち」「次の世代をつくる」産業と地域にして行く責務があります。
農政の変革は今後も続きます。次期国会には土地改良法や農産物の価格転嫁に関する法律など、さらに重要な法案の提出を視野に現在作業が進んでいます。
法律は成立しましたが、私たちにひと段落したと休む暇はありません。次のステージに向けての歩みを始めます。
写真はスマート農業技術を象徴する自動運転田植え機のモデル実証田んぼ