ニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)は無理

2022年03月04日

 安倍元総理が先月、2月27日のテレビ番組に出演された際、NATO(北大西洋条約機構)加盟国の一部が採用している、米国の核兵器を自国の領土内に配備して共同運用する「ニュークリア・シェアリング」(核兵器の共有)政策に触れ「この世界はどのように安全が守られているか、という現実の議論をタブー視してはいけない」と発言されたことが大きな波紋を呼んでいます。

 私も驚き、一方でなるほど、と思いましたのでいくつかの文献を読んで調べてみました。

 NATOではアメリカの核兵器が提供されニュークリア・シェアリングを受けている国はドイツ、ベルギー、イタリア、オランダ、トルコの5か国です。イギリス、フランスはすでに核保有国です。この制度は1950年から60年代にかけての冷戦時にヨーロッパ(EU加盟国)をソ連から守るために締結された仕組みです。

 その運用は次のようなものです。B61という射程の短い戦術核爆弾を米国がニュークリア・シェアリングを提携している同盟国に渡します。その核爆弾をそれぞれのニュークリア・シェアリング国が軍用機に搭載して目の前に迫ってきた敵の侵攻部隊に対して使用する、というものです。戦略核による核戦争が双方で勃発した際に、戦術核を用いながら地上戦を展開するという状況が想定されています。
 ただし共有国の自由意思で核爆弾を使用することは出来ず、アメリカや同盟国の了解も必要と言われています。そして自国の国土で使用するという覚悟も求められることになります。戦略核は戦争の抑止力として存在もしますが、少なくとも戦術核兵器の共有は「戦争の抑止力」という位置づけではなく、一旦地上戦が始まった場合の強力な攻撃兵器、という事になります。。
 あくまで1960年前後にソ連とNATOの全面戦争になった場合を想定して組み立てられたものです。

 これを日本に当てはめてみるとNATOのような多国間軍事同盟がありません。日米韓豪で組むことは不可能ではありませんが現実的には無理です。日米の二国間で共有をする、となるとNATO方式のような多角的核戦力構想とは全く違ったものになります。

 例えば、北朝鮮が日本に核を発射するとするなら核弾頭を搭載した弾道ミサイルのことであり、北の大群が日本海を超えて上陸してくることは非現実的です。中国、ロシアに対してはそれこそ日米安全保障条約の下、同盟国として共に戦わなくてはなりませんし、クワッド(日、印、豪、米)の枠組みや西側民主主義諸国と連携して国土、国民の防衛のために戦わなくてはなりません。台湾有事の際には戦場がまずは台湾海峡や台湾本土ですのでニュークリア・シェアリングを使用することはできません。

 このため、いろいろと考えてみましたが現在の地政学上、現実対応としては「ニュークリア―シェアリング」は無理です。

 しかし、わが国は周囲を海に囲まれた海洋国家です。海の守りがまずは重要です。そのための備えに対しては周辺諸国の兵器の進化等を考えた場合、中国の原子力潜水艦は既に速度30ノットで進行します。現在、我が国の通常動力式潜水艦は20ノットです。これでは到底追跡も出来ません。海防として原子力潜水艦の建造、もしくは保有などは考えなくてはならないと思います。