「同志少女よ、敵を撃て」を読む最中に・・

2022年03月01日

 「同志少女よ、敵を撃て」は2021年のアガサ・クリスティー賞の受賞時に史上初めて審査員全員が満票をつけた小説です。作者は逢坂冬馬(あいさかとうま)さん、1985年生まれ、480ページに及ぶ長編です。
 舞台は旧ソ連のモスクワ郊外やスターリングラード(現ヴォルゴグラード)、ウクライナのハリコフなど現在のロシア・ウクライナ地域です。時代は1942年から45年まで、ソ連に侵攻するヒトラーのドイツ軍と祖国を防衛するソ連赤軍の戦い。

 モスクワ近郊の寒村に暮らす少女がドイツ軍よって村を焼かれ、母親をはじめとする村人が惨殺されます。自らも射殺される寸前にソ連赤軍の女性兵士に助け出され「戦いたいか、死にたいか」と問われ、戦うために女性狙撃兵となって、訓練され、優秀な兵士となります。ウクライナ周辺でドイツ兵を次々に狙撃していきますが、共に教育を受け訓練された女性狙撃兵も同じ境遇から、狙撃兵になった者ばかりでした。共通の仲間意識も生まれます。そのような戦いと殺戮と仲間との出会いの中で、「なんのために戦うのか」「祖国とは」などの疑問を抱きながら終戦を迎えます。

 長い小説ですので、忙しい合間を縫って夜に読み、羽田・熊本便往復の機内で読み上げました。そして読んでいる最中にロシアのウクライナへの武力攻撃による侵略が始まりました。小説とは全く逆の立場で、侵略者はドイツのヒトラーではなく、ロシアのプーチンです。読むほうも力が入りました。

 主人公の女性狙撃兵は技術を磨き、各戦線で100人のドイツ兵を狙撃・殺戮します。しかし一方で、各地から集まった同じ境遇で一緒に訓練を受け、寝食を共にした仲間の女性狙撃兵士も各地で命を落としていきます。

 1945年に終戦。小さいころ焼き払われ、村人や母が惨殺された生まれ故郷の村に戻り、自分の教官であった女性兵士と一緒に暮らし、戦争とは何だったのか、ソ連の祖国防衛とは何だったのか、そして人間とは、を振り返ります。自分は一途に敵を撃ってきたが、戦争に勝者も敗者もない、ただ無残な殺戮が残るだけ、という思いを持ちながら、教えを受け尊敬する女性教官と平和の中で生きがいを持ちながら暮らしていくというストーリーです。

 第2次世界大戦でのドイツの死者は900万人、ソ連は2000万人です。ちなみに日本は太平洋、日中戦争で死者310万人、軍人・軍属が230万人、一般市民80万人と言われています。

 約80年前の出来事ですが、今現在ウクライナで、女性子供を含む多数の死者が出ています。戦争で得るものは何もなく、深い悲しみが残るだけですが、それでも戦争に発展する社会の複雑さがあります。私たちはこの愚かさに対して、様々なルールをつくり、国際条約を結び力の均衡によって平和を保って来たつもりですが、それでも食い止められない現実があります。

 1日(火)も自民党では外交部会などが開かれ、ウクライナ情勢の報告がありました。しかし、事態は改善の方向に向かっているとは思えません。私たちの無力さや歯がゆさを感じざるを得ません。現実は冷酷です。それでも「何とかしなくては」と思います。