日本農業の難しさと素晴らしさ

2015年10月07日

 TPPの大筋合意は大きな波紋を広げています。私のところにも農家の方から「今の政権はあまりにも農業を軽んじていないか」などの電話がありました。私から言えば軽んじていないというより、分かっていない、ように思います。
 今朝の各新聞はおおむねTPP合意には好意的な論調です。「今後は規模拡大を実現して、国際競争力を高めなくてはならない」という趣旨の記事が目立ちます。しかし、よーく国の実態というのを調べていただきたい、とも思うのです。
 乳製品で高い競争力を持つといわれるニュージーランド。同じ島国であり、国土面積は日本の3分の2です。ここになぜ競争力の高い酪農が存在しているのか。
 まず人口が445万人しかいません。乳牛の数は620万頭。ちなみに羊は3200万頭。酪農は全て放牧酪農です。乳牛の主食は牧草です。我が国のように高たんぱく質の栄養分がたっぷり入っている配合飼料をほとんど食べさせません。餌のコストは格段に低いのです。その代わり一年間に乳牛が出すお乳は日本が1万キロリットルに対して4000キロリットルと半分以下です。
 我が国は1億2500万人の人口があります。そのほとんどが牛乳を飲みます。ですからできるだけ栄養分の高い飼料を食べさせ、多くのお乳を出してもらい毎日消費者に供給しなければ間に合わないのです。
 しかし、ニュージーは人口が日本の25分のⅠですので飲用乳がほとんどいりません。搾った牛乳はほとんどがバター、チーズ、脱脂粉乳になり長期保存が利くのです。そこでローコストでつくった乳製品が格段に安い、競争力の源になってるのです。これはニュージーランドの人口や高い山がない国土などを考えて編み出されたものです。
 日本は高コスト、大量の搾乳、そして飲用乳の安全性とカロリーが高いコクのある牛乳で消費者に栄養満点の牛乳を届ける、というこれも日本ならではの酪農システムをつくり上げているのです。容易にに規模拡大と低コストは出来ません。同じ酪農でもニュージー型と日本型があります。
  農村そのものも、ニュージーはそれだけの人口ですから集落はありません。しかし日本は農村集落の中にその人口を収めてきました。収めるだけでなく集落単位でお祭りや各種の文化、教育、福祉などの共同体をつくり上げてきました。それが日本の勤勉さや礼儀正しさ、また工業技術の礎になっています。そこが日本社会の素晴らしさです。 
 TPP大筋合意を機に、国の成り立ちや将来の姿をもう一度考える時です。導入すべきものは導入する、しかしそれを日本型にアレンジしていく、そして新たな文化と伝統と技術を創造していく、残すものは頑固に残す。そこを奥深く考え一歩一臂進んでいくことが今いちばん求められています。賢い日本。この作業をやることが地方創生にもつながります。