水田活用の直接支払交付金、5年に1度の水張り問題

2024年03月10日


 「水田活用の直接支払交付金」という制度があります。米の需要が毎年10万トンずつ減少しており、水田で主食用の米を作ってもコメ余りが発生するので、水田の機能を維持したまま、主食用米以外の作物をつくれば10アール(1反)当たりに、その作物に対して直接支援金を交付するという制度です。
例えば麦や大豆を作れば10アール当たり3.5万円、飼料用の稲=ホールクロップサイレージ(稲穂が出て完熟したころ収穫してラップで包んで発酵させ飼料にする)に8万円、加工用米に2万円、飼料用米や米粉用米に5.5万円から10.5万円が支払われます。それ以外にも牧草やソバなどにも交付されます。
ただし、あくまで水田の機能を維持することが条件ですので、5年に1度、水稲の作付、または1か月以上は作付けする田んぼに水を張らなくてはなりません。
コメの消費減に対応するため、水田の持つ機能は維持しつつも、より需要のある作物の生産を促していくという政策です。

継続的な畑地化
 しかし、長期にわたって水張りが行われず、事実上畑地として作付けが行われ、それに交付金が支払われていたことが会計検査院から指摘されたことを受け、5年に1度の水張りをしなければ、令和9年以降、交付金の対象としないという方針になりました。

農家からは不満の声の合唱
 これに対して各農家から不満の声が聞こえてきます。私にも数多くの地元の農家の方々が訴えてこられます。「この交付金が打ち切られたなら、牧草やソバや麦、大豆などはコスト割れでとてもじゃないけど植えられない。特に中山間地は耕作放棄地がますます広がることは確実だ」という声です。国会の予算委員会でも取り上げられました。

農家の本音「人間が食べるコメを作りたい」
 農家の方々から言わせれば「私たちは人間が食べるコメを作りたい。そして美味いと言っていただくのが農業のやりがいだ。それを政府の方針で家畜に食べさせる米、牧草を仕方なく畜産農家と連携して作っている。主食用米に比べると単価は安いし、交付金がなくてはやっていけない。特に中山間地はソバか牧草しかできないので狭い水田でも作っている。地震で水も来なくなった。水張りも出来ない状態だ。それに対して厳しい措置をとってもらうと農家としての意欲を失う」という事になります。

時代が変わり政策も変化を
 私も、美味しい米を存分に作って頂きたいと思います。秋の収穫シーズンにはみんなで豊作を祝うというのが、農家や農村の昔からの姿と喜びです。それが次の年の意欲にも繋がって来ました。しかし、米の消費量は毎年減少しています。人口、とりわけ食欲旺盛な若者が減っています。集落挙げて田植えをし、夏には防除と雑草取り、初秋には台風等への備え、そしていよいよ収穫、豊作に感謝し、村の神社で秋祭り、という年中行事は過去のものとなりつつあります。

集団での取り組み
 寂しい事ですが、圃場整備された水田で主食用米以外に何を作付けするか、需要を予測しながら次の年の作付けをしなくてはならなくなりました。水田機能は地下水保全や田んぼダムとしての働き、連作障害防止の上でも大切な事です。そのうえで、畑作物を効率的に作付けする畑地にする農地、そこで作付けする作物を考えていかなくてはなりません。
これは一人の農業者で出来るものではありません。地域の協議会が一体となり、また農業法人や家族経営がそれぞれに連携して輪作体系をつくり上げ、一方で畑地にする地域を決めていく必要があります。

農業の難しさ
 これまでより、経営判断が要求される農業になりました。農業経営集団として、また地域全体としての計画性が求められます。
食料を安定的に届け、自然を守り農村を維持し、そして何より農業者の所得を向上させていくこと。どの産業もそうですが、農業はとりわけ、「人の営み」と「あるべき社会の姿」と「自然や大地」に配慮する難しさがあります。
写真は麦が作付けされている私の町の水田