臓器移植法の難しさ
2009年05月15日
昨日は臓器移植法のD案なるものが発表され議論しました。臓器移植については、平成9年に現在の臓器移植法が制定され、まず、心臓・肺・肝臓などを臓器と定義し、①生前本人が臓器提供の意思表示をしていること、②かつ、遺族が摘出を拒まないこと、を条件にして死体(脳死した者の身体を含む)から臓器の摘出を可能としました(一般的に脳死とは脳の機能は停止しているが心臓が動いている状態)。さらに、ガイドラインで意思表示できる年齢を15歳以上の者と定めました。
しかし、生前に臓器移植の同意を書面でする人などは少なく、このため臓器提供者(ドナー)は限られ、この10年間で81例にしか達していません。このため心臓の移植などを希望する子供たちのその多くが、アメリカをはじめとする海外に渡って移植手術をしなくてはいけません。この状態について移植を待つ家族や医師の方から法律の改正をして、移植手術が国内で出来る環境を作ってほしい、という要望が出ています。
それに対応するため、平成18年に医師で国会議員の中山太郎先生たちが中心になって、「本人の意思が不明である時は遺族(家族)が書面で承諾すれば良い」という法案を提出されました。これがA案です。これに対して「本人の意思表示が出来る年齢を現行の15歳でなく12歳まで引き下げる案」がB案。さらに「脳死」の判断を更に厳しくしたC案が次々と出され、これまで国会で論議されながらも「生と死」を巡る問題だけに話が前に進みませんでした。しかも内容自体が重く、人の尊厳がかかわる問題なので政党による法案提出でなく、党の縛りをはずして国会議員の個々人の判断で考えるという方針でしたので、なおさら議論百出の状態でした。
ところが、世界保健機構(WHО)が海外での臓器移植を禁止するという方針を出すことになりました。国内での臓器移植が出来ないことで海外で移植手術をすることは、結局問題を海外に持ち込むだけであり、一方で臓器売買などの問題を世界的に引き起こすことになる、というものです。まさに日本を名指しで批判しているようでもあります。
そこでにわかに臓器移植法の改正が今国会提出という切羽詰った状態になり、再び論議され始めました。しかしこれまでのABC案では同じ論議を繰り返すことになります。そこで一歩進めるためにD案が出されたと言う次第です。D案はA案と余り変わりませんが「15歳未満については遺族(家族)の書面による承諾と虐待が行われていないか医療機関の確認を受ける」となっています。
審議を進めるために賛成する意見も数多く出されました。しかし一方で「これでは臓器移植は進まない。4案全て否決で法律が成立しないと言う最悪の状態にもなる」という意見も数多く出されました。
私もこのD案は中途半端なものでこれまでの論議を足して2で割ったような案だと思いますし、これでは国内での臓器移植手術は進まない、と考えます。やはりA案に賛成です。しかしA案への抵抗が多いならどうすべきなのか。最後は国民の皆さんの理解が必要なので、このA案と臓器移植を待っておられる方々の気持ちなど、もっと皆さんで議論して理解してもらう以外にありません。